未来をつくるSDGsマガジン ソトコト 編集長 指出 一正(さしで かずまさ)

僕はもう「うれしい未来」の
なかにいる。
『ソトコト』という視点で見つめる今まで、そしてこれから

エコからソーシャル、そしてSDGs*へ。地域や社会を立体的に見つめ、並走し続けるマガジン『ソトコト』。その活動は、雑誌やウェブメディアにとどまらず、サロンやイベントを通じて、どんどん広がりを見せています。

それらを束ねるのが、編集長の指出一正さん。「エコと向き合ってきたら、社会問題にたどりついた」と話す、指出さんが考える「うれしい未来」とは?
弊社代表・宮本が、その思いをうかがいました。 *『SDGs』:エス・ディー・ジーズ。環境保全や貧困撲滅などを掲げて国際社会で制定された「持続可能な開発目標」のこと

地域の人たちがもっとしあわせに、
もっとおもしろくなる社会を目指して

地域の人たちがもっとしあわせに、もっとおもしろくなる社会を目指して
まずは『ソトコト』という雑誌、そして事業について詳しくおうかがいさせてください。
雑誌やメディア、オンラインサロンやイベントのプロジェクトなど、さまざまなご活躍を拝見しております。
もともとはメディアを中心にした会社です。大きくは雑誌やウェブのメディア事業、地域づくりや人材育成などの教育、そしてイベントのディレクションや運営、という3本柱でしょうか。
今のような複合的な事業となるきっかけは、2006年にスタートした『ロハスデザイン大賞』です。ロハスを体現する人・もの・活動に特化した賞やエキシビションの全体統括を続けてきたなかで、だんだんと社会的に大きな役割を担う組織や企業がサポートしてくれるようになりました。

環境を身近に考えるということが、社会や地域、地方を盛り上げようとする動きにつながってきたのだと思います。その間にはリーマンショックや東日本大震災などもありましたから、僕たちがやってきたエコ、ロハスという環境に寄りそっていた形から、より社会全体へと広がっていったのでしょう。

日本が人口急減の社会に突入したことや、東京一極集中に対する疑問の声などがどんどん重なってきたことも一因かもしれません。日本を支えていくには首都圏だけでなく、中山間地域を擁する地方の存在が等しくとても大切で、そういう場所が元気になっていくためのプロジェクトに一緒に取り組む機会も増えましたね。

地域の人たちがもっとしあわせに、もっとおもしろくなる社会を目指して
手がけられている講座でも、地方の人たちを育てていくプログラムが多くあるとお聞きしました。
外から地域に興味を持ってもらうための講座、そして地域で起業する人を育てていくための講座、さらにそのためのスキルとして、編集を学ぶ場などを作っています。
いずれも通底しているのは、その地域と出会ったり暮らしたりしていくことで、人がしあわせになり、地域の未来をおもしろく考える人たちが増えていくための事業だということです。

釣り好き少年だからこそ見つけられた、
未来をチェンジするあゆみ

釣り好き少年だからこそ見つけられた、未来をチェンジするあゆみ
現在のポジションには、どのような経緯でたどり着かれたのでしょうか?
生まれも育ちも群馬県高崎市です。子どものころから釣りばかりしていたのですが、中学や高校くらいには雑誌『POPYE(ポパイ)』を読みながら、いつかこの編集者になりたいと思うようになりました。『POPYE』なら、北関東の今のこの場所よりも、東京で褒められるような新しいライフスタイルが待っているんじゃないかと(笑)。

でも実際には、沼や川とばかり仲良くしていた僕は、まったく『POPYE』的な姿勢を磨いていなかったんですね。ほとんど釣りと山登りにしか興味がない人間でしたから、それを楽しく仕事にしたいと、山と溪谷社の『Outdoor』という雑誌の編集部に入りました。
そこでアウトドアやキャンプ、山登りや釣りなどをテーマにメディア作りをしていましたが、だんだんと日本の山や森、川や魚たちが疲れているのに気づき始めたんです。
フィールドが好きな人たちに向けたメディアでは、エコロジーの視点でこんな釣りをしてみようよ、こんなふうに山や川のことを考えたらいいんじゃない?というのが伝わりやすいんです。その場が好きな人たちしか集まっていないわけですから。
だから、もっと広く伝えるためには、この外に出ないといけないと考えました。山登りと魚釣りばかりではなく、もう少し地球規模で考えるべきでは、と。そこで、『ソトコト』が創刊5周年のときに副編集長として移ってきました。今から17年前のことです。
そう考えると、大学を出てから28年間、ずっと雑誌の編集者をやっていますね。

地球や社会の問題を、みんなが興味のある言葉に
翻訳し、再編集していく

エコや社会問題を取り上げていくのにも、さまざまなアプローチがあるなかで、『ソトコト』ではどんな点を意識されていますか?
一番大事にしているのは、難しいこと、人がつい避けてしまうことを、いかにおしゃれでかっこよく伝えるかということです。
『ソトコト』は、例えば「人口が減っている」というような、どちらかというと乗り越えるべき社会のテーマや課題が起きている地域とそこに暮らす人を取材しているメディアです。優しい思いや強い思いをもって行動している地域や人たちですが、それをストレートに伝えても、なかなか広くは伝わりません。

地球環境と社会課題をなんとかしなければいけない、と言われても世の中の人は興味がわかないわけです。でも、かっこいい、おしゃれ、かわいい、おいしそう……ということは、みんなが好きですよね。強いもの、かっこいいものをかっこよく見せるのではなく、弱くて小さくて、ときにほころびがありそうなもの、それをどのくらいおもしろがってもらえるかというのが自分の中でテーマとしているところです。社会の課題をそこまで翻訳し、再編集する必要性を感じています。

労働やコミュニティの問題など、ヘビーなテーマでも、実はおもしろい面がいっぱいあるんですよ。それを多くの人に伝えたいというのが僕の信条であり、責務でもあると思います。

全国地域を25カ所。
定点訪問を続けて築いた関係性

全国地域を25カ所。定点訪問を続けて築いた関係性
全国、あらゆる地域に訪問を続けてらっしゃるとうかがいました。
はい。今、僕が定点でおうかがいしているところは全国に約25カ所あります。年に何回も行ける場所もあれば、3年で2回というところもありますが、今となっては週のうち6日は東京にいないような生活を10年以上続けてきました。そうやって、少しずつ関係性を築いてきたのだと思います。
一般的にメディアは、新しい情報や場所を切り取って紹介していくことが多いなかで、「定点」という視点にはどんな意義を感じてらっしゃるのでしょうか?
そもそも僕は釣りが好きなので、日本の各地にお気に入りの川がいくつもあるんです。そして同じ川に、17年、18年と通い続けていると、だんだんと見えてくるものがあります。
たとえば、ある年はすごく大きな魚が釣れて、またある年は人の手が入って護岸工事が進み、ある年は工事した場所が大水で流され護岸が壊れる……。そんなことが、当たり前のようにあって、ひとつひとつが過ぎていく事象でしかないんです。

だから、「この川も魚がいなくなったな」というのをたった1年で感じるのはまず無理ですし、20年近く通っていると、むしろ魚も人間が作った環境をしたたかに利用しながら大きくなっていると感じられたりもします。
そうやって、人が何かを作って、また自然によって壊されて、その隙間と合間を利用して生き物たちがのびのびと営みを繰り返している。そういうのを見るのが好きなんです。そしてこれは、小さな魚に限った話ではなく、中山間地域も都市も、みんな同じだと思います。
ある地域に、奇跡のようなローカルヒーロー、ローカルヒロインが現れて、それで終わりではありません。何年も通っていると、その人たちが少しずつ年齢を重ねて、お兄さんお姉さん、お父さんお母さんになっていく。また次の世代が新しくやってきて、少し違う文脈でその地域に輝きを放ってくれたりもします。そういった移ろいを感じながら、そのうえで地域のことを伝えるべきじゃないかと思うんです。どんなにワンパターンだと言われても、そこにずっと通うという場所を25カ所もつことは、発信、発言をする人間として大切にしていることです。

大切にしたい場所には、
「美しい森、肥沃な田園地帯、人の息遣い」がある

日本の北から南まで、お世話になっている地域、おもしろいコミュニティのみなさんにお会いするたびに、この中で暮らしたいと思うことも多々あります。自分の心がときめく場所に出会い、その場所で暮らす楽しさをリアルに想像できる関係性を築かせてもらっているとも感じています。

じゃあどこで、と聞かれるとたくさんあって言い切れませんが、美しい森があるところ、肥沃な田園地帯、人の息遣いが聞こえるところ、この3択ですね。地域の豊かさがあるうえで、そこから循環が生まれるというのは常に感じていることで、この3つに必ず当てはまると思っています。

もうすでに、「うれしい未来」のなかに暮らしている

もうすでに、「うれしい未来」のなかに暮らしている
では、そんな指出さんにとって「うれしい未来」とはなんでしょうか?
イワナとタナゴが気持ちよく生きている未来ですね。
イワナは森、タナゴは田んぼにいる魚なんですが、要はイワナやタナゴが人間と同じように、のんびり川や用水路にいるようなところは、今の日本では限られた場所しかありません。

おもしろいことに、イワナやタナゴがいる水系は、『ソトコト』の若い読者のみなさんが「すてきなローカルを見つけた!」という場所と、ほぼ同じなんです。たとえば400年続く味噌や醤油の蔵が残っているのはイワナがたくさんいる地域だったり、おいしいお米や野菜ができる肥沃な大地にはタナゴが群れで泳いでいたりします。

でも僕自身は、もうすでに「うれしい未来」のなかに生きていると感じています。

昔は、マイボトルやマイ箸だなんて言ったときに、一体誰がそんなものを持つんだと言われましたが、それを軽々と乗り越えて女性のみなさんが持ち始め、社会全体が変わりましたよね。大きな潮流ではないかもしれませんが、少なくともそれがスタンダードだという人たちが現れたことを、僕たちはすごく喜びました。

温暖化が進むなかで、このままの未来ではいけないとSDGsをみんなが考えるようになってきて、SDGsネイティブ、サステナブル・ネイティブとでもいうのでしょうか。当たり前のこととして自分の真ん中に置いている人たちが現れたことがうれしいですし、未来ってこうなっていくといいなと漠然と描いていた未来に突入したのだと感じました。
これから、どんどん社会が変わっていくなかで『ソトコト』の役割や目標も変わっていくのでしょうか?
もしかしたら『ソトコト』がなくなること自体が、『ソトコト』の未来の目標なのかもしれません。僕たちが存在するというのは、存在すべき役割があるということです。ですから、『ソトコト』に出ているような人たちが、ごく普通にどの街にもいる、みんながそうだという社会がきたら、このメディアの存在意義はなくなります。でも、そう思いながら、もう23年、僕が携わってからも17年くらいしぶとく作り続けているというのは、まだまだ役割があるからなのでしょうね。
いつかその日がきたときには、きっと完璧にご機嫌な社会になっていると思います。

「大人って案外たいしたことないんだな」と、
思ってもらいたい

「大人って案外たいしたことないんだな」と、思ってもらいたい
『ソトコト』がなくなる社会、もしその日がやってきたら、指出さんは次になにをしていたいですか?
地域の小さな釣り具店の店主になりたいですね。
僕は小・中・高と、ずっと釣り具店に入り浸って自分という人間ができました。釣り具店というのは、年齢や職種、属性を超えて、単に釣り好きの人たちが集まって、長くいられる場所です。
手芸が好きな人なら手芸店、インコが好きなら小鳥屋かもしれません。釣りや小さな生き物をつぶさに観察しながら、興奮して延々としゃべっていられる大人がたくさんいれば、子どもたちも安心すると思います。「あぁ、大人ってこんなことばっかり考えてるのか。案外たいしたことないんだな」って、そう思ってもらいたいし、実際に僕もそう思いながら大人になりました。そのおかげで『ソトコト』というメディアに関われて、地域を変えていく若い人たちに出会う機会を得られたりしたわけです。
だから、そういう空間を用意するのが次の僕の任務な気がしています。 環境にやさしい釣り具店とかどうでしょう。糸はシルクで、天然素材だけを使うとか。釣り針もなく、魚がエサを食べた瞬間のブルブルだけ感じて終わりとか(笑)。
「あのとき、指出さんの釣り具店に通っていてよかったなぁ」っていう場所をつくれたら、うれしいですね。
「あのとき、指出さんの釣り具店に通っていてよかったなぁ」っていう場所をつくれたら、うれしいですね。
未来をつくるSDGsマガジン ソトコト
編集長 指出 一正(さしで かずまさ)
未来をつくるSDGsマガジン ソトコト 編集長 指出 一正(さしで かずまさ)
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。
官公庁や自治体の委員、メディアの監修等を多数務める。
奈良県「SUSTAINABLE DESIGN SCHOOL」メイン講師。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。2025年大阪・関西万博日本館クリエイター。
著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。
趣味はフライフィッシング